FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第一話 はじまりの物語  

 朝起きると、すっきりしていた。何か、もやもやした気持ちが一気にリセットされたような、清々しい朝だ。
「はじまりの朝だ。」
 そうつぶやいた。
 身支度をして、朝食を食べていると、二階で足音がする。
 私は驚きのあまり目を見開いた。大あくびをしながら階段を降りてくる見知らぬ男。私は慌ててパジャマの前を押さえた。ボタンが三つ目までだらしなくあいていたからだ。だが、それどころじゃない。女の一人暮らしの家を狙って入ってきた空き巣なのかもしれない。
「ど、どなたですか?」
 声が震えてしまった。
 男は、慣れた様子で向かいのいすに腰掛けると、あくびをかみ殺しながら、
「君のだんなさん」
 と言い、はいこれ、と無造作に私の日記帳を差し出した。それは、十代の頃、誕生日に母からプレゼントされた美しい装丁の分厚い日記帳だった。表紙に「10年日記」と書いてある。間違いなく私の日記帳だ。でも、これは使うのがもったいなくて、何か特別なことがあった日から書き始めようと、引き出しにしまっていたはずだ。怪訝な顔の私に男は、こう言った。
「はじまりのページを読んでごらん」
 なんだか、見知らぬ男とは思えないとても温かい眼差しだったので、私は少し安心して、日記を手に取る。そこにはこう書いてあった。
<病院の吉田先生から日記を書くことを勧められた。私は三年前に交通事故にあって、記憶が二十四時間しか持続しない前行性健忘症という病気になったという。それから毎朝、前の日のことを全部忘れてしまうのだそうだ。だから、毎日、日記を書いて、翌朝それを読むようにしなさい、と。
 今朝起きたときは、男の人がいて驚いたが、彼は私の夫だという。二年前の結婚式の写真も見せてくれた。>
 それから、結婚した日の日記も読んだ。私は、<とても幸せだ>と書いていた。<今日のことは決して忘れたくない>とも。
 私は、いたたまれない気持ちになった。なぜ、こんな病気の私と結婚したの?と聞くと、彼は優しく笑って言った。
「毎日、新しい恋がはじまるなんて、最高に幸せな人生じゃないか」と。
 私は切なくなって彼の胸で思い切り泣いた。今日のこの気持ちを忘れないように、日記に書いておこう。
                                       FIN
                                         
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

FC2プロフ
最新短編小説
リンク
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
7932位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
1974位
アクセスランキングを見る>>
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

立川サリー

Author:立川サリー
立川サリー(ペンネーム)です。
東京の西のはずれ在住。
とにかく何か物語を書くのが好きです。

小説家志望です。
パートタイムで働きながら、文章修行しています。お気に召したら時々読みにいらしてください。
コメントなどをいただけると、大変有り難いです。

検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。